荒涼館 / C.ディケンズ [海外作品]
メイドの世界で紹介されていて、読んだ作品。
全4巻。
時代はおそらくディケンズの生きた19世紀半ばのイギリス。
荒涼館に住む人々やジャーンディス対ジャーンディス事件をめぐるお話。
裁判制度や慈善事業などに対する社会風刺が散りばめられています。
前に同じディケンズの二都物語を読んだときにも書いたけれど、点と点だった事柄がつながっていって線となる印象。さらにその傾向が強い気がします。初めのうちはその点がばらばら過ぎて混乱してしまいます。
そして登場人物が多く把握しきれていないまま。
ジャーンディスさんに寄生しているスキムポールさん。愛すべき人物とされているが、?と思うところが多く、エスタやジャーンディスさんも最後には離れていくのに正直ほっとしました。
訴訟に傾倒しすぎるリチャードにも辟易。エイダがかわいそう・・。最後には目を覚ましたようで一息ついたものの切ない結末。
エスタの目線で書かれているところと、地の文で書かれているところが半々くらいです。
私としては、結局最後までエスタの話の方が読みやすかったです。
エスタが幸せな生活を送れそうなので、それが何よりも嬉しい。
タグ:ディケンズ
大聖堂 / ケン・フォレット [海外作品]
12世紀のイングランドが舞台。
ホワイトシップの遭難でヘンリー1世の息子が亡くなり、娘のマティルダと甥のスティーブンが王位を争うという史実も描かれている。
主人公と思われる人物が何人もいる。
まず、石工のトム。立派な大聖堂を設計し建てることを夢見ている。
次に、修道院長のフィリップ。選挙で修道院長に選ばれ、修道院を再建していく。
元シャーリング伯の娘のアリエナ。領地を奪われ路頭をさまようが、羊毛で富を築く。
トムの再婚相手エリンの息子のジャック。トムの技を受け継いで、職人になる。
トムの息子のアレフレッドといい、シャーリング伯となるウィリアムといい、粗野で乱暴な知性にかけた人物が多い。アリエナの弟のリチャードも戦いにしか能がない感じ。当時はそういう人が多かったのか・・?それとも単に作者の都合だけなのか。
堕落した修道院を建て直していくフィリップが好き。
キングスブリッジ修道院の発展には、街づくりの要素もあり、そんなところも惹かれる要因のひとつ。
最初の方で登場する、フィリップが森の聖ヨハネ修道院にいたころの問題児ピーターのことはどうなったんだろうと思っていたら、忘れた頃に登場。こんなところにつながってくるのか~。
やむなく見捨てたトムの息子のジョナサンが修道院で育てられて地位を築き、また、シャーリング領もジャックとアリエナの息子が取り戻すという、2世代に渡る大団円。
善人と悪人が割とはっきりしていて、勧善懲悪的なところは私としては嬉しいし読みやすい。
当時の生活や文化が描かれていて、面白い。
修道院の生活、貴族の生活、羊毛市などの市場、戦い、そして石工たちの生活。
無法者や牢獄、娼婦まで様子が窺える。
修道院の食事はポリッジにエール。
羊毛が富の鍵。そんなところに目をつけたフィリップにアリエナ。
縮絨という作業や、それを楽にする機会の発明、へえ~と思うことがいっぱい。
もちろん、建築についても詳しく書かれている。大聖堂が美しくみえるには調和が大事。
ロマネスク建築からゴシック建築に移行する時期で、ジャックがフランスやスペインで新しい知識を取り入れて、新たな大聖堂を設計するというのもいいなと思うところ。
全3巻で、1冊600ページほどもあるのだけれど、そのボリュームを感じさせないほどさくさく読めちゃいます。
タグ:ケン・フォレット
指輪物語 / トールキン [海外作品]
3部に分かれていて、私が読んだ評論社の文庫版だと計9冊。
『ホビットの冒険』を先に読んだほうが良かったかも。実は挫折してこちらへきたのだけれど。
こちらも少々斜め読みする(頭に入ってこない)部分もあったけれど(特に詩歌)、でも最後まで読み通して良かったです。
旅立つホビットたち。ちょっとのんき過ぎるんじゃないと思うくらいで、予想通り事件が。
指輪に決着がついてからもページ数が結構あるからどうなるのかと思ったら、ホビット庄でまた事件。
旅立つまでの出来事も、しっかり最後に関係していました。
サムの従者ぶりに、感動、脱帽。
メリーとピピンにはいつもハラハラ。でも何気に大活躍。
エルフのレゴラスとドワーフのギムリのコンビがいい。
そしてアラゴルンが格好良い。
悪役のサウロンにサルマン。名前がややこしい。
ゴクリを殺さずにいる、フロドとサム。意味があったことなのだと納得。
ロスロリアンやエント、モルドール。映像化したらどんな風なんだろう。
映画の『ロード・オブ・ザ・リング』は観たことはないけれど、面白そうだなと思います。
フロドとピルボ、ガンダルフの船出。それは新しい時代のはじまり。
第一部 旅の仲間
第二部 二つの塔
第三部 王の帰還
タグ:トールキン
クォヴァディス―ネロの時代の物語 / シェンキェヴィチ [海外作品]
クォヴァディス〈上〉―ネロの時代の物語 (1954年) (岩波文庫)
- 作者: シェンキェヴィチ
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1954
- メディア: 文庫
上中下の計3冊。
副題の通り、ネロの時代の物語。
キリスト教徒がまだ得体の知れない怪しい集団だとして迫害されていた時代。
そして、ペテロやパウロの時代でもある。彼らが小説に登場するというのは、何だか新鮮というか、不思議な感じでした。
リギア(一応はローマの人質である娘)に惹かれて、キリスト教に目覚める、ローマ貴族のヴィニキウス。
ヴィニキウスとリギアの2人を見守る、ヴィニキウスの叔父のペトロニウス。2人を見守るというところからか、『二都物語』(ディケンズ)のロリー氏を連想してしまいました。
『背教者ユリアヌス』(辻邦生)の後に読んだせいか、キリスト教も初期は政治にまみれていなくて、純粋に教えそのものだったんだな・・と実感。
魚のシンボル(イクトゥス)は、『愛してローマ夜想曲』(藤本ひとみ)で知っていましたが、その由来は初めて知りました。
ギリシア語でイエス・キリスト・神の子・救世主の頭文字を合わせたものだとか。
ただ、リギアとヴィニキウスの愛の物語、そしてヴィニキウスの改宗の物語とするならば、上中2巻で既に遂げている。
でも下巻が奥深い。『クォ ヴァディス』の言葉も下巻で登場します。
ローマの火事という大事件。責任は得体の知れないキリスト教徒に押し付けた。
闘技場では、抵抗しないキリスト教徒は奇怪のようにみえるかもしれない。
その一方、血を求める民衆に、残酷さを感じずにもいられない。
キロンは自分のことしか考えていない、二枚舌の裏切り者。と思いきや・・。
ネロに追従するペトロニウスとティゲリヌスの敵対関係。
ペトロニウスの方が芸術を理解するところからか重く見られていた感もあったが、ヴィニキウスをかばうために徐々に均衡が崩れていく。
ペトロニウスの最後の晩餐が印象的。
キリスト教も認めた上で、自分はその道を行かない。ギリシア・ローマの芸術を愛し、自分の意思を貫き通す。
ヴィニキウスとリギアよりも、ペトロニウスとエウニケの方に惹かれました。
思っていた以上に、実在の人物が多いよう。(wikiによるものなので、真偽は不明だけど)
リギアの養い親のアウルスやポンポニアは創作かと思っていました。
ちなみに、私は旧版で読んだので、翻訳の漢字が旧字体という点で読むのに苦労しました。
新版はこちら。
タグ:シェンキェヴィチ
落日の剣―真実のアーサー王の物語 / ローズマリ・サトクリフ [海外作品]
「ともしびをかかげて」の主人公、アクイラやその息子フラビアンも登場。
この作品を読んでみたかったので、ローマン・ブリテンシリーズとアーサー王シリーズを先に読んだのでした。
アーサー王、この本ではアルトスの一人称で、アルトスの回想として物語は進みます。
アーサー王伝説をベースにはしていますが、現実的で時代背景を考慮した歴史小説のよう。
そのせいか、アーサー王シリーズと違って感情移入が出来愛着が湧きます。
アーサー王伝説の軸となる2つの柱は健在。
1つめは、姉の呪い(姉と関係を持ちその子供が悲劇を起こす)
2つめは、妻と親友の裏切り
この2つもうまく生かされていて、妙に納得してしまいます。真実はこうだったのではと。
過程はなるほどという感じで、最後はちょっと救われたような。
そうとは知らず姉イゲルナとの子供を持つ。その行為がトラウマで妻のグエンフマラとの間に子供が出来ない。そんなところも認めて、アルトスとグエンフマラは愛を育んでいるように思えたが・・。
やっと出来た娘。アルトスとは好意的な黒い矮人の村で出産し、数日留まることになった。グエンフマラはそのことに過剰に嫌悪の反応を示した。
せっかく子供が生まれたのに、だんだんすれ違っていく。娘が亡くなったとき、ついにグエンフマラはアルトスを拒絶する。
そんなときに、イゲルナの息子メドラウト登場・・!
馬や兵糧を手に入れる厳しさ。そんなところは現実的。常に苦労しています。
一応はキリスト教。でも、騎士たちの信じる神はそれぞれ。そんなところもこの時代の象徴なんだと思います。
時代の象徴といえば、ゴールドとレヴィンの関係(同性愛)も昔(キリスト教以前)は一般的だったのかなというのが最近思うところ。
馬を買い付けに行ったときに出会ったベドウィル。吟遊詩人。その辺りのエピソードが好きなのですが、ベドウィルが仲間になるときの、今後の憂いを予想させる一文が気になる。
元修道士見習いの医師のグワルフマイも好き。
グエンフマラも魅力的だったのですが、後半のヒステリックさにはついていけない。
愛犬や愛馬の登場する場面がなんだか嬉しい。
冬の砦の厳しさ。
アクイラからフラビアンへの指輪の継承のエピソードは、ローマン・ブリテンシリーズの読者には嬉しい。
アンブロシウスの最期に感動。
サクソン人の侵入を防ぐため、ブリテンのために生きたアルトス。まさにブリテン王の名にふさわしい(王になるのは終盤で、それまではブリテン伯ですが)。だからこそ、メドラウドの行為が痛い。
タグ:ローズマリ・サトクリフ
アーサー王最後の戦い / ローズマリ・サトクリフ [海外作品]
アーサー王最後の戦い―サトクリフ・オリジナル〈3〉 (サトクリフ・オリジナル (3))
- 作者: ローズマリ サトクリフ
- 出版社/メーカー: 原書房
- 発売日: 2001/04
- メディア: 単行本
サトクリフのアーサー王シリーズ3冊目。
アーサーの息子(姉との)モルドレッドがやってきた。モルドレッドは、アーサー憎しと育てられていた。
アーサーは、王妃グウィネヴィアとランスロットが密かに想い合っているのを知っていながら見て見ぬ振りをしていた。公にしてしまえば、2人を裁かなければならなくなるから。法の下に国を統べてきた王として、例外は許されない。妻と親友という大事な2人をなくしたくない。
ところが、モルドレッドの策略にはまり、全ては明るみになってしまった。
ガウェインとランスロットは旧知の仲であったが、処刑されるグウィネヴィアを救うために無我夢中になっているうちに、ランスロットはガウェインの弟のガレスとガヘレスをそうとは知らず殺してしまった。ガウェインはランスロットを憎むようになる。何度も戦いを申し込むがランスロットには勝てない。
アーサーの留守中にモルドレッドが王になろうとしている。アーサーとモルドレッドの戦いが始まった。
結末は・・結構好きかもしれない。
何気にグウィネヴィアも活躍。マーリンの眠るアヴァロンの地。そしてたびたび登場する隠者の庵。
アーサー王の伝説が児童書ではないのは、近親相姦とか不倫とかがあるからか。
全巻を通して、アーサー王よりも他の人物に焦点が当たっていることが多い。それゆえに、アーサー王自身の魅力があまりよく分からない。
タグ:ローズマリ・サトクリフ