ローマ人の物語XIVキリストの勝利 / 塩野 七生 [歴史の本]
文庫版38-40巻。
寛容が売りのローマ帝国だったのに、他は認めない一神教のキリスト教を国教にしたために、ますますローマの魅力を失っていく・・。
背教者と呼ばれるユリアヌス。
キリスト教徒の優遇策を廃止。優遇するのを否定しているだけで、キリスト教自体を認めていないわけではない。コンスタンティヌスやテオドシウスが大帝と呼ばれるのも、キリスト教世界の都合だし。
キリスト教世界からすると悪者なのだろうし、背教者の響きから良いイメージはなかったのだけれど、以前のローマ帝国の皇帝としては、それなりの人物だったのでは。
短命でなければ、キリストの勝利前の、ローマらしい帝国がよみがえったかも・・と思わせる。
それでもきっと、時代が許さないのかな・・とも思うけれど。
『背教者ユリアヌス』(辻邦生)も読んでみたい。
為政者にとって、様々なことを神のせいにできる、都合のいい宗教。
人の手によって皇帝にされたのではなく、神によって皇帝にされたのだから。
3世紀の危機の時のような、謀殺を繰り返す時代に比べれば、ましなのか。
逆に、愚かな皇帝でも替えることができないから、よくないのか。
結果、同じ皇帝が長く統治するから、政策の安定はするのかな・・?
王権神授説だよね。絶対王政を待たなくても。そう考えると、中世のときは・・あまり大きな力を持つものがいなかったのはなぜだろう。
そして、ついに皇帝ではなく、司教がとりあげられる。
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名画で読み解く ブルボン王朝12の物語 / 中野 京子 [歴史の本]
メディチ家から嫁いできたマリー・ド・メディシスの章から始まる。(内容的にはヴァロワ朝にさかのぼってカトリーヌ・ド・メディシスから)
スペインからルイ13世に嫁いだ、アンヌ・ドートリッシュ。
ドートリッシュの名前はオーストリアからきていて、ハプスブルク家の流れ。こんなところで繋がってくるから面白い。
ルイ14世は、アンヌ・ドートリッシュの遅い子供。ルイ13世は男色だったとか。
イングランドとも繋がりが。
ルイ13世の妹であるヘンリエッタは、チャールズ1世に嫁いでいる。
スペイン・ハプスブルク家が途絶え、スペイン継承戦争が起きて、スペイン・ブルボン家が統治し、今に至る。
フランスには公式愛妾の制度が。
ポンパドゥール夫人。ルイ15世よりも有名なんだね。
革命後の流れはあまり詳しくなかったのですが、やっと整理できた(つもり)。
マリー・アントワネットの娘がこんなところで繋がってくるとは。
シャルル10世の息子に嫁いでいる。いとこ同士か。
国家間での結婚が多いんだなという印象。横の繋がりが見えて面白いです。
カトリックは離婚できない、ならばなかったことにしてしまおう。とか、それでいいの?
イギリスの貴族は田舎好きだけれど、フランスの貴族は領地を放ってでも宮廷の傍に住みたがるとか。
チャールズ1世の絵とルイ14世の絵。同じようなポーズをしているとか。
作者も絵に描かれているという趣向の模倣とか。
また、象徴の人物化というのは慣れないですね。西洋では当たり前なのか・・。
こんなところは、「名画で読み解く」ならでは。
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世界史をつくった最強の三〇〇人 / 小前 亮 [歴史の本]
2ページで3~4人という1人あたり数行程度の紹介です。
時代ごとに載っています。没年順だったかな・・?
300人以上載っているので、知らない人物もそれなりに出てくる。1~2割くらい・・?
その知らない人物は、なぜか日本人が多かったりするという、私の偏りぶりが表れています。
私だったら、どんな選出をするかな・・と考えるのも楽しい。
作者も書いている通り、独断と偏見に満ち満ちた選出と文章。
それでも、有名どころは割合揃っている。やっぱり外せない・・?
作家として、この人を主人公に話を書きたい、という目線で選んだそうだから、有名な人物ほど書き応えがありそうだから、当然といえば当然か。
世界史はあまり・・という人は結構多いようですね。
そんな人にも興味を持ってほしいというのは、私も同感です。
歴史は物語。ただ年表を覚えるのではなくて、そうやってお話として読んだら面白いのに。
そういった意味で、人物に焦点をあてるのはいいなと思いました。
歴史の信憑性とか、小説はどこまでが事実でどこからが創作なのかの境界だったりとか、鵜呑みにするのは間違いかもしれないけれど、一応それを心に留めた上で、実際にあったかもしれないと想像するのは楽しいのです。
私が世界史も歴史小説も好きだから、そんな風に思うわけですが。
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海の都の物語 / 塩野 七生 [歴史の本]
海の都の物語〈1〉―ヴェネツィア共和国の一千年 (新潮文庫)
- 作者: 塩野 七生
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2009/05/28
- メディア: 文庫
全6冊。
ローマ人の物語を読んでいて、続きが貸し出し中などで借りられないときに、代わりにと読み始めました。
新潮文庫で読み始めましたが、途中で1-3しか図書館に置いていないことが分かり、4-6にあたる中公文庫の下巻で読むことにしました。こちらは分厚いのが難点。
同じくイタリアを舞台としていて、ローマのその後、という感じもします。
まあ、初めの時期はそんなに詳しくないですけど。
周りのミラノやジェノヴァなど、なんとなく同列で見ていましたが(イタリアの自治都市という意味で)、実体は違うのですね。
共和国。王政のように1人の為政を嫌うというところも、共和政ローマと共通の雰囲気。
交渉で外交危機を切り抜ける。
時には、ローマ法王と敵対するトルコと結んだり。
利益を重視する商人の都市のイメージ。
しかもそれは、個人としてではなくて、国を挙げてだったりする。
聖地巡礼パック旅行とか、面白かった。宗教を商売に結びつけるところがヴェネツィアにしか出来ない発想。
ヴェネツィアンガラスなど、職人育成に力を入れるところもさすが。
とても実質的。それは衣装にも現れる。
ナポレオンの登場まで続く、長い歴史。
船の力を持っていた、最盛期がやっぱり魅力的ですね。
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ローマ人の物語XII迷走する帝国 / 塩野 七生 [歴史の本]
ローマ人の物語〈32〉迷走する帝国〈上〉 (新潮文庫 し 12-82)
- 作者: 塩野 七生
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2008/08/28
- メディア: 文庫
文庫版32-34巻。
タイトルが、どれも的を得ていると思います。
同じような混沌の時代でも、「勝者の混迷」「危機と克服」「終わりの始まり」と。
今回は、まさに迷走。ローマは、どこへ向かっていくのか?
他からの侵攻もないとはいえないけれど(むしろ多いけど)、どちらかというと自ら首を絞めているというか、ローマらしさを捨てていくというか。でも、柔軟に変化してきているローマだから、「ローマらしさ」というのは不都合か。ローマの魅力を失うというべきか。
例えば、ローマの市民権のあり方。
前はあるプロセスを経た者だけが得られた権利が、全ての者(奴隷は除く)に与えられるようになった。
一見、平等でいいことのように思えるが、努力もしないで権利を得られるということは怠惰を生み、以前からの取得者の気力を削ぐ。
そして、いわゆる軍人皇帝時代で、皇帝はめまぐるしく代わっていく。
戦死はともかくとしても、謀殺が多く、味方同士で何しているんだよ~という感じです。
そのまま治世が続けばいいのにと思われる皇帝が、同じローマ人によって暗殺される・・。
軍人皇帝が出てくるということ自体は、当時の状況としてはやむを得ないかなとは思うけれど。
一方、軍人と文官のキャリアを分離してしまった制度は、(以前の皇帝たちのような)両方の能力を持つものが出てこなくなるということで、これまた、ローマの魅力が失われていく原因の一つだと思うのです。
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ローマ人の物語XIII最後の努力 / 塩野 七生 [歴史の本]
文庫版35-37巻。
ディオクレティアヌスやコンスタンティヌスの時代。
帝国存続のための最後の努力。
ディオクレティアヌスは、分割統治とか、分裂につながりそうで、あまり賢帝のイメージがなかったのですが、彼自身が統治していた時は、なかなか上手くいっていたようで見直しました。
ただ、彼以外の人々には向かない統治法だった。
ディオクレティアヌスの後の混乱をまとめて、再び統括したコンスタンティヌス。
コンスタンティヌスも、ミラノ勅令やコンスタンティノープル遷都で、世界史上有名な名前。
本人がキリスト教徒であったか(信じていたか)は定かではないようだが(死の直前洗礼は受けているけど)、擁護したり利用したりしていたという。
法の支配→キリスト教の支配。なるほど。
王権神授説のはしり。
彼から中世が始まるというのも、わかるような。
ローマから遷都する時点で、ローマ時代の終わりが見えてきたような。
建て直しを図り、ローマ帝国をそうまでして延命させたいのか・・?という疑問は、歴史を知っている現代だから言えるのでは、と思うけれど。
でも反面、中国の三国時代(最近読んだから・笑)みたいに、新しい国を建てよう、という動きはなかったのかなあ、とも少々思ってみたり。
※2冊飛んでいますけど、感想がまとまったこちらを先に記事にしちゃいます。
「終わりの始まり」と「迷走する帝国」はまた後ほど。
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