背教者ユリアヌス / 辻 邦生 [国内作品]
ギリシアの学問や文化、ローマの神々を愛する、ローマらしい皇帝。
先入観もあり、ユリアヌス贔屓で読みました。
コンスタンティヌス帝は、キリスト教も1つの宗教として認めただけで、国教にしたのではなかったのではなかったっけ?ミラノ勅令は、全ての宗教を等しく認めただけで、キリスト教を優遇したわけではなかったと思うのだけれど。・・と思っていたのですが、調べてみたらコンスタンティヌス帝も優遇策を採っていたっぽい・・?
コンスタンティヌス帝の死後、エウセビウス司教の駆け引きで、キリスト教優位が定着した感がある。官僚がキリスト教徒でないと疎外されるような・・。逆に、官僚になるためにキリスト教徒になる的な。政治というか、権力の道具に使われているような感じ。
ユリアヌスもその辺りに嫌悪を表しているように思います。
ユリアヌスは、優遇策を否定しただけで、キリスト教自体を認めていないわけではない。
背教者、と呼ばれるのは、キリスト教世界からみてのこと。と思っていましたが。
ユリアヌスも貧しい人々の中に見る助け合いの精神を評価し、洗礼も受けている。
その上でのギリシア・ローマへの回帰なので、そう呼ばれても仕方ない面もあるのかな。
エウセビウス(司教)にエウビウス(宦官)(名前がややこしい!)。
彼らのユリアヌスを陥れようとする熱意には閉口します。
宦官たちが宮廷内を取り仕切っていた感があります。
ギリシアの学問を共に学んだゾナス、踊り子のディア。
彼らとの庶民的なやりとりが好きです。法廷に登場するディアに感動。
皇帝であった期間はわずか2年間。
ユリアヌスの政策が定着するくらい続いていたら、どうなっていたんだろうな。
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シュガーアップル・フェアリーテイル 銀砂糖師と赤の王国 / 三川 みり [国内作品]
シュガーアップル・フェアリーテイル 銀砂糖師と赤の王国 (角川ビーンズ文庫)
- 作者: 三川 みり
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2011/09/30
- メディア: 文庫
シリーズ6冊目。
前作を読んでから少し間があいてしまいました。
図書館の本を優先で読んでいると、ついつい後回しになってしまいます。
ペイジ工房編が終わるらしく、いろんなことに一区切りついたかな、という感じ。
ペイジ工房も、ブリジットも、キースも、ラファルも。
ラファルはきっと生きているんだろうな。というか、生きていなかったら逆にびっくり。
空間を彩る、光と砂糖細工のイルミネーション。
傷ついた妖精たちのために作る砂糖菓子。思いがこもる。
アンの作る銀砂糖細工、好きだなあ。
世界観というか、ストーリーもやっぱり好きです。
気になるのは説明文かなー。
タグ:三川みり
上海恋茶館 / 青木 祐子 [国内作品]
上海恋茶館 待ちぼうけのダージリン (上海恋茶館シリーズ) (コバルト文庫)
- 作者: 青木 祐子
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2012/04/28
- メディア: 文庫
青木祐子さんのヴィクトリアン・ローズ・テーラーシリーズの次の作品です。
1冊目は割と買ってすぐに読みましたが、2・3冊目はつい最近読みました。
20世紀初頭のイギリス租界、上海。
そんな時代はあまり詳しくないので、新しい文化に触れられて楽しかったです。
白麗路に紅麗路、虹口。そんな単語にわくわく。
そして阿片。でもアヘン戦争からもだいぶ経っているはずだよね・・?
イギリス人のリリア、日本人の龍之介、2人ともいろいろと隠しているものがある。
文章が今までと違う感じがするのは、そんなところも関係するのか。格闘技もあるし。
最初、ちょっとあれ・・とも思ったけれど、最後まで読んで良かったです。
まさに、和洋中のミックスです。
特に服装に表れている気がします。龍之介の着流し、リリアのドレス、フェイの旗袍。
フェイの部屋の壁紙が赤だったりするのは、中華のイメージですね。
地元の少年、魯明がいい味出しています。
茶館いいな。私もお茶好きなので。個人的にはアールグレイが好き。
ミルク、ジンジャーシロップ、そして緑茶も。カップもまたいい。
いったん閉館、ということは、続くのかな・・?帯には完結とあるけど。番外編みたいな形ならありえるか。
1.待ちぼうけのダージリン
2.アール・グレイは琥珀のくちづけ
3.ジンジャー・ティーは熱くまろやかに
タグ:青木祐子
プルタークの物語 / 阿刀田 高 [国内作品]
上下巻の全2冊。
『ローマとギリシャの英雄たち』という名前で文庫版も出ているようですが、図書館になかったのでハードカバーで読みました。
阿刀田高さんの教養エッセイ。今回はプルターク(プルタルコス)の英雄伝(対比列伝)。
対比列伝は、その名の通り、ローマとギリシアの人物を対比して、1人ずつ紹介した後に、考察が書かれているらしい。
阿刀田さんは、ある程度有名どころに絞っているので、片方の人物はもう一人の人物の章の最後に少し書かれているだけの場合も。
聞いたことのある人物のほうが読んでいて面白いから、私はそれでいいと思いますが。
上下各12章。
ギリシアの方が最盛期が早いので、前半はギリシア、後半はローマの人物が多くなります。
下巻の冒頭の、アレクサンドロスとカエサルにはそれぞれ2章が割り当てられています。この2人は対比ではなく、1人ずつ書かれているとか。
読んでいて、印象が変わったのは小カトー。
おそらく、初めの知識は塩野七生さんの『ローマ人の物語』によるものなので、カエサルの政敵となる小カトーはあまり良いイメージではなかったのが、こちらを読んで覆されたのでしょう。が、具体的にはあまり覚えていない・・。
よく知らなかった人物で興味を持ったのは、デモステネス。
最盛期を過ぎたアテネで、アテネを導く弁論家。
同じく阿刀田高さんの『獅子王アレクサンドロス』を読んだときに登場して、あの人だ!と頭の中でつながって嬉しかったです。
対比列伝に、アウグストゥス(オクタヴィアヌス)の項目はないんだな・・。
でもきっと、書かれなかったのではなくて、失われたのだろうな、と推測。
対比列伝そのものを、読んでみたいと前から思っていて、今も少しは思っているけれど、とりあえずはこれを読んだからいいかと思っているところでもあります。
タグ:阿刀田高
皇妃エリザベート / 藤本 ひとみ [国内作品]
バイエルンからオーストリアに嫁いだ、エリザベートの生涯。
愛称はシシィ。父マクシミリアンの自由奔放さを受け継ぎ、王位継承権からも遠くのびのびと育った娘。
あるきっかけで夫になるフランツ・ヨーゼフ。
シシィの自由さを好んで妻にしたのに、母のゾフィにまかせるなんて。
ゾフィはシシィの自由の翼を縛ろうとする。皇室に嫁いだのだから当然のことではあるけれど。
そして、いろんな面でシシィよりゾフィを優先。そんなところはちょっと・・。
嫁姑問題を助長した要因には夫の言動にもあるだろう。
シシィはウィーンから遠ざかるように、あちこちを旅するようになる。
4人の子供との関わり方がまた、シシィの性格を表している。
シシィが亡くなるのは1898年。まだ100年ちょっとしか経っていない。100年前はまだこんな世界が続いていたのね。
メッテルニヒ、ビスマルク、ワーグナー、ラデツキー、ルートヴィヒ2世、ノイシュヴァンシュタイン城。
そんな単語が、まとまる、つながる。この時代だったんだな、と。
タグ:藤本ひとみ
ジャンヌ・ダルク暗殺 / 藤本 ひとみ [国内作品]
ジャンヌが2人。
主人公のジャンヌは娼婦。
ジャンヌ・ダルクの方は『ラ・ピュセル』。聖女。
百年戦争。この時代の血縁関係はややこしい。イギリスとフランスにまたがっているから。
それゆえ、継承問題に発展してしまうのだろうけれど・・。
シャルル王太子は、賢王シャルル5世の孫であるが、シャルル6世は狂王。6世の妻イザベルはシャルル王太子はシャルル6世の子供ではないと継承権を否定する。そこで、シャルル王太子の姉と結婚したヘンリー5世が継承権を要求するのである。
ラ・ピュセル。神を信じる聖女のイメージ。が、見方を変えれば、責任を全て神に押し付け、神に魂を売り養ってもらうということ。
シャルル王太子。責任を取らずに権威だけを手に入れ、遊び暮らすことを夢見る。
ラ・トレモワイユ。私腹を肥やすことばかり考え、自分の利益のために他を退ける。
ヨランド義母后。賢母のイメージ。ジャンヌとのやりとりが印象的。
アルチュール。正義の人。ジャンヌの運命の人。読んでいるときは気がつかなかったけれど、アーサーのフランス名だったのね。この人が活躍する歴史小説があったら読んでみたいな。
そして、ジャンヌ。ラ・ピュセルに反発しながらも、野望のため共に進む。義理堅く強か。神を信じないジャンヌも最後には・・。
このお話ではラ・ピュセルよりもジャンヌのほうが魅力的です。
ちなみに新潮文庫では、改題して『聖女ジャンヌと娼婦ジャンヌ』となっています。
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